「ぽち、気にしない気にしない。背くらいどうってことないさ。一寸法師だってタイニーなのだ。希望を持って気長に生きてさえいれば、いつか背丈も十尺くらいにはなる」
「なるかっ!」
野村の呑気なアドバイスに、その場にいる全員でツッコんでしまった。
いくらなんでも、俊春は一寸法師ほど小さくはない。そこまでじゃない。
それに、植髮 心得 希望を持って気長に生きているだけで十尺になるわけもない。
ツッコミどころ満載な謎アドバイスだ。ってか、いいかげんなことをいっているし。
ちなみに、十尺は約三メートルである。
それは兎も角、結局、厨にはなーんにもなかった。が、ちょうど副長と顔見知りの商人をみかけた。
その商人は、たいそうな子ども好きらしい。市村と田村が「腹が減ったね」と哀れっぽくいっただけで、すぐに米を調達してくれた。
なんか子どもを使っての「腹減った詐欺」っぽい気もしないでもないが、せっかく恵んでくれた米である。ありがたく頂戴した。
みんなで手分けして炊き、おにぎりを握った。そして、五稜郭に逃げ込んできている将兵にできるかぎり供給をした。
みんな負けて心身ともにボロボロになりながら、うまいうまいといって喰っていた。
商人に感謝、である。
そして、夜になるまでに俊冬と相棒がもどってきた。
それから、有川へ向けて出陣をした。
夜襲を仕掛けるためである。
本来なら、副長はこの夜襲に参加していないはずである。
が、やはり気になるらしい。
ついていくといいだした。
ってか、おそらくおれも参加していないはずである。それをいうなら、島田と蟻通と安富も。さらには、伊庭も。
伊庭にかぎっていえば、完璧参加していない。できるわけがない。
本来なら、かれは重傷を負っているのだから。
「それで、木古内や矢不来での被害はどうだったんですか?」
副長は木古内・矢不来方面から戻ってきた榎本や大鳥と、ついさきほど打ち合わせをおこなったのである。
とはいえ、ほんのわずかな時間である。
「まだ確実なことはわからぬ。なにせ、まだ戻ってきておらぬ将兵がいるであろうからな」
副長に被害状況を尋ねると、副長は「竹殿」の上でイケメンを左右に振った。
たしかにそうかもしれない。戦場でてんでばらばらに逃げれば、兎に角みんな敵のいなさそうなところに向かうだろう。まっすぐ五稜郭に戻ってくることが出来るとはかぎらない。しかも、だれもが土地勘があるわけではない。混乱もしているだろうから、冷静に東西南北を判断できないかもしれない。
「だが、そこまで深刻ではないだろう、ということだ」
つけ加えられた言葉に、思わず俊春の方を見てしまった。
かれは、お馬さんの一頭に俊冬といっしょに乗っている。いまも打ち合わせなのであろう。俊冬と真剣に話をしている。
「史実では、百六十名の戦死者をだしたということです」
馬上を見上げ、副長に告げた。
今回は、自分の脚でいくことにした。中島や隊士たちにあわせたかったからである。
お馬さんに乗せてもらっているのは、副長と島田と安富と俊冬と俊春である。
蟻通も徒歩組である。それから、伊庭も。
一つには、狙撃を怖れてということがある。敵のスナイパーがいれば、確実に馬上のを狙う。
なぜなら、馬に乗っているということは、ある程度の身分だからである。
とはいえ、副長だけを乗せるわけにもいかない。目立ってしまうからである。ここは数名が乗り、敵のスナイパーを欺く必要がある。
もっとも、こちらには宇宙レベルで高性能なセンサー機能を搭載している人類の叡智がもいる。
スナイパー自身の体臭や硝煙のにおいで、どれだけうまく隠れようが偽装しようが、人類の叡智たちはすぐに察知してしまう
ゆえに極端な話ではあるが、戦国時代の戦のように「陸軍奉行並土方歳三ここにあり」とか「新撰組『鬼の副長』見参」とこれみよがしに記されている旗指物を背負っていても、安心かもしれない。
「そうか。かように大勢が死ぬはずだったのか」
副長の嘆息が落ちてきて、はっとした。
「そこまでではないはずだ。六十名も死んではおらぬかもしれぬ」
副長は、ひとり言のようにそうつけ加えた。
まるでそう切望しているかのように。
「それだけの人数ですんだのだとすれば、それはすべてぽちの功績ですよね」
「ああ。おまえのいう通りだ。百名以上の将兵の